例外状態
危機を理由に、通常の法や権利が「一時的に」止められる。だがその例外は、いつしか解除されないまま、あたりまえの日常になっていく。
来歴
例外状態とは、危機を理由に、通常の法や権利の適用が一時的に停止される事態を指す。法学者カール・シュミットは一九二〇年代に、主権とはこの例外状態について決定する力だと論じた。
シュミットの議論は、法の外にあるはずの決定が、実は法の秩序を支えているという逆説を突いている。二十世紀末以降、この主題を引き継いだジョルジョ・アガンベンは、例外がもはや一時的なものではなくなりつつあると論じた。非常時のための措置が延長を重ね、解除されないまま制度の一部となり、やがて例外であること自体が忘れられていく、という見立てである。
危機の最中に、その措置を吟味する余裕はない。だから例外は、必要とされたその瞬間には、反対の声が届きにくい。この概念が指しているのは、権利が奪われる劇的な場面ではなく、いつ戻すのかを誰も言い出さないまま日常になっていく、その静かな移行のほうである。
出典
カール・シュミット/ジョルジョ・アガンベン『例外状態』