フォード紀元
自動車王フォードの名を神に戴き、その大量生産の思想を暦の起点とした社会。人間さえ規格品として量産され、「みんなが万人のもの」と教え込まれる。
来歴
フォード紀元とは、オルダス・ハクスリーの小説『すばらしい新世界』の世界国家で用いられる暦を指す。自動車の大量生産で知られるヘンリー・フォードが神に等しい存在として祀られ、その名にちなんだ年号が使われている。人々は驚いたときに、神の名を呼ぶ代わりにフォードの名を口にする。
信仰の対象は人格ではなく、方法である。規格化された部品を組み合わせ、流れ作業で同じものを大量に作るという考え方が、車だけでなく人間の生産や社会の設計にまで及んでいる。十字架は、その上端を落としてT字に整えられている——量産車の名を象った形である。
宗教が消えたのではなく、置き換わっている。フォード紀元という設定が示しているのは、効率と安定が最上の価値になったとき、それを疑う言葉が信仰の対象の側に回収されてしまうという事態である。神が変われば、何を罪と感じるかも変わる。