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物語

WatchMe

体内に常駐し、健康状態を24時間監視して最適化し続ける医療ナノマシン。人々は生まれたときから“見守られ”、逸脱の余地を持たない。

来歴

WatchMeとは、伊藤計劃の小説『ハーモニー』に登場する、体内に常駐して健康状態を監視する医療システムを指す。成人の身体に組み込まれ、さまざまな生体情報を継続的に把握し、病気や身体の異常を早期に発見する。病は起きてから治すものではなく、起きる前に察知し、身体を健康な状態に保つことが理想とされる。WatchMeは、まさにその理想を実現するための技術である。

そこにあるのは、単純な監視社会ではない。WatchMeは人々を支配するための装置としてではなく、誰もが安心して健康に生きるための医療として受け入れられている。健康を守ることそのものが社会の重要な価値となった結果、身体の状態を常に把握されることも、管理されることも、次第に当然のものになっていく。

しかし、身体がつねに観測され、異常があればただちに修正される社会では、自分の身体を自分だけのものとして扱う余地が小さくなる。病気や不調だけでなく、苦痛や逸脱さえも取り除かれるなら、自らの身体を傷つけることは、社会の側から見れば「治すべき異常」にしかならない。作中の少女たちが自らの身体を損なうという形で抵抗するのは、健康が徹底的に管理された社会のなかで、最後まで自分の意思で触れることのできる領域が、自分自身の身体だったからでもある。

WatchMeが不気味なのは、それが単なる監視装置ではないからだ。人々を実際に病気から守り、命を救う医療の仕組みであるからこそ、その監視を拒むことは難しい。「見守ること」と「見張ること」は、装置の上では区別がつかない。WatchMeという名前が象徴しているのは、監視が命令としてではなく、健康を守るという善意のかたちで届けられるとき、それを拒む理由さえも失われていく社会の姿である。

出典

ハーモニー 伊藤計劃 / 2008

大きな災禍を経て、世界は健康と生命を最上の価値とする社会になった。人々は体内のWatchMeに見守られ、病も不調も許されない。優しさと管理が一体になった“やわらかな支配”の果てを描く。

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