業魔/悪鬼
呪力を持つ人間が、抑えを失ってしまった状態を指す二つの言葉。他者を害する者が「悪鬼」、自らを崩していく者が「業魔」とされ、社会が最も恐れる存在として扱われる。
来歴
業魔と悪鬼とは、貴志祐介の小説『新世界より』で、呪力を持つ人間が制御を失った状態を指す二つの呼び名である。人を害する方へ向かった者が悪鬼、力が本人の意思を離れて漏れ出し、周囲のものを異形へと変えていく者が業魔とされる。
この世界の人間の身体には、同類を攻撃しようとすると激しい発作が起きて死に至る仕組みが組み込まれている。悪鬼とは、そのブレーキが効かない特殊な例外のことだ。共同体にとって最大の脅威は外敵ではなく、内側から生まれるこの二つであり、社会の厳しい管理や子どもたちの選別は、「いつか業魔や悪鬼が現れるかもしれない」という恐怖によって正当化されている。
恐ろしいものに名前が与えられたとき、社会の制度はその名前を根拠に動くようになる。「業魔」「悪鬼」という言葉は、災厄の理由を説明するだけでなく、危険とみなされた者を社会から排除したり処分したりすることを、人々が受け入れるための共通の理由にもなっている。また、その恐怖が単なる作り話ではなく、放置すれば本当に世界が滅びる本物の脅威として描かれている。だからこそ読者は、この管理社会を単なる「悪」として切り捨てることができなくなる。